3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震によりお亡くなりになった方々のご冥福をお祈りするとともに、そのご家族、被害に遭われた皆様へお見舞いを申し上げます。被災地域の一日も早い復興を心よりお祈りします。
震災後、M3ではこの5月に予定しているイベントについて開催が可能か検討してきました。情報収集の結果、会場の東京流通センターは被災しておらず使用に全く問題がないこと、会場への主な交通手段となる東京モノレールおよび周辺道路が健常に運用されていること、開催日が通年で最も電力需要が低い時期にあたるため電力使用上の懸念を回避できること、などの理由から、開催は可能であると判断しました。よって、現時点では予定を変更せず、要項で発表のとおりM3-2011春を開催する方針です。
過日サイトにおいてその旨発表したところ、予定通り開催することを疑問とするご意見をいくつかいただきました。真摯な、あるいは率直なご提案を頂戴したことへ感謝いたします。これについて準備会の見解をお示ししたいと思います。
まず現状では、東日本における震災被害、福島原発における重大な事故、インフラおよび産業の破壊による広範囲の物資・電力の不足など、日本にはいくつもの困難な課題が突きつけられています。その中でイベントを開催することについて、「被災者の困難と心情を思えば不謹慎」「余震の続く中での開催は危険」「資源の無駄遣い」などのご意見があることは承知しております。確かにイベントを開催することは、この国難を乗り越えるのに直接的にはなんら役立つことができません。今も不安な日々を被災地で暮らす方々の気持ちを思い測れば、イベントの開催などまったく無用のものかもしれない、という心の揺らぎを禁じえません。
まず明らかなことを申し上げます。M3準備会としては危険を冒してまでイベントを開催するつもりは毛頭ありません。開催地での災害が予想される、会場への交通手段がない、電力不足により会場運営が困難、など具体的な問題があれば、当然ながらまずそれについて精査します。あるいは、イベントの開催が、災害地で必要とされる資源を不要に浪費することがわかっていれば、なんらか方策を考えなければなりません。そうした検討の結果、開催不能あるいは不適切という判断に至れば、M3はイベントを中止することにやぶさかでありません。
いずれにせよ、作品発表と交流の場であるM3が、まず第一に安全であること、公共の益に反しないものであることが最低条件となるのは間違いありません。
しかし、開催できる条件が満たされるなら、M3はイベントを開催すべきと考えます。それは、平時の通りイベントを開催することが、参加者のみならず幅広く人の心の復興に、そして社会の復興に役立つはずと思うからです。
いま日本は沈鬱な雰囲気と焦燥感で溢れています。この空気の中、前向きな気持ちはくじかれ、今日生きることに心身をすり減らし、ひたすら気持ちの乾きに耐えながら日々を過ごすよりない人々が多く存在します。しかし人間はそうしたときも将来への希望をどこかに見出さなければ生きていくことはできません。
困難な状況の中、恐怖と餓えに苛まれながら耐え忍び、そして生還した人たちのことが思い起こされます。昨年8月、チリの鉱山で起きた落盤事故で33名の作業員が地下634mの坑道に閉じ込められました。状況は絶望的でした。しかし彼らは救いの手が届くことを信じ、その時に向け準備して待ち続け、困難な状況のなか恐怖に打ち勝って、事故から18日目に坑道内の避難所まで貫通したドリルに遭遇するに至りました。生還への道が繋がったのを見ることができたのです。
ドリル孔からもたらされたのは水・食料・医療品とともにビデオチャットを可能にする回線でした。それを使って囚われの作業員たちは家族と話し、姿をお互いに確認して無事を喜びました。やがてサッカーの中継が可能になると作業員たちはこぞって観戦し、自国チームを応援し、歓声を上げ、肩を組んで歌ったのです。
これが彼らの大きな希望となり、かつて絶望に埋め尽くされそうになった坑道で生き抜く力を与えたのに違いありません。彼らは確かに困難な状況にいましたが、彼らの無事の帰宅を祈る人々がいて、地上にはそれまでと変わらぬ世界があるということに希望をつないだのです。
もし、回線を通じて与えられる情報が希望を打ち消してしまうものばかりだったらどうだったでしょう。「救出は困難、いったい何か月かかることか」「家族はみな諦めている」あるいは「実は地上に大災害があって戻るところなどない」だったとしたら。衣食が足りていたとしても、希望のないまま坑道で過ごす日々を耐えることが果たしてできたでしょうか。
目を転じて、いま日本に溢れる悲観的な報道は、人々の希望を失わせるようなものになっていないでしょうか。また、行過ぎた自粛ムードは、破壊された産業基盤や人的喪失により低下せざるを得ない経済活動を、さらに落ち込ませることにならないでしょうか。こうした虚脱感が、ますます日本から元気や希望を奪い、暗くやるせない雰囲気ばかりを増すことにならないでしょうか。
今求められているのは、そういうものではないと思います。
この災害の中でも発見される希望のかけらをひとつひとつ拾い集め、復興により取り戻すべき平安な社会への想いを持ち続けること、これが困難を踏み越えていく勇気になるのではないでしょうか。力を失い声もなくうずくまるのでなく、勇気を持って立ち上がることが明日に繋がるのではないでしょうか。
M3にできるのはたった一つのことでしかありません。それは予定通りイベントを開催することです。しかしイベントを開催することはそれだけに留まりません。たとえば、思うまま創作活動ができること、作品を巡って人々が交流できること、そうして関わった人と人の輪が広がっていくこと - こうしたことを可能にする背景が日本には備わっていて、この素晴らしい文化と社会が失われず、今も健全に維持されているということの証になるのです。
被災を免れた人々が、被災者への想いを忘れず、復興への意思を持って、自分のできる範囲のことを精一杯してゆく。これが被災者への応援となり、共にこの困難を乗り越え、復興へ繋がる希望の道になると信じます。やがて人々の傷が癒え、再生した日本の社会で全員が手を携えて活動できる日へ向けて。
M3はできる限り音系・メディアミックス同人の世界を応援し、この分野の高まりをもって震災後の社会復興に貢献したいと思います。
2011年3月
M3準備会事務局長 相川宏達